ちがう、そうじゃない!

あたまからっぽで読んで下さい

第三者視点好きって言った。身近な人物の目線で見るヘクジェラはおいしいとおもった。
…………どうしてジェイムズ視点だとかわいそおなことになるんですか?どおして?
ヘクジェラ時空だとどうしても…………そのようなことになってしまって………すみません………
ちょっと急ぎ足で書いたので推敲ろくにしてないです。勢いで読んで下さい。
久しぶりにひとくち話にちょうどいい長さです。(3000文字くらいのみじかいやつです)

「………………………なんだこれは」
 見る限り、壁、壁、壁、天井、床、壁。
 いっそ恐ろしさの方が先に立つような、真っ白の部屋に佇んでいてた。
 頭痛がする頭を抱えてジェイムズは唸るような声を上げたのが今だ。
「誰か! いないか!」
 腹から響かせる大音声は、しかし何も応えを寄越さない。ぎり、と歯を強く噛みジェイムズは渋面を作る。
 今この場でジェイムズは己が孤立していることを認めた。
 すかさず状況を思い出す。
 全ては見たこともない遺跡を氷に覆われた土地で発見したことから成る。
 隊を組み進んだその遺跡は出会うモンスターは全て段違いの強さで苦戦を強いられた。しかし得られる対価はそれに見合う物であり進行は止めなかった。
 進むうちに不思議な機構が見つかる。進行先がどこもかしこも氷で覆われ弱った先に見つけたその機構を、最終的に動かすことを決めた皇帝、すなわちジェラールがぼうっと点滅する球状のものに触れると――とても目を開けていられない閃光が迸る。
 上がる悲鳴、動く足、伸びる手。身体は動いたが真っ白に塗りつぶされた視界に思わず腕で目元を覆った。
 遠ざかる音。どれほどの時間が過ぎたのかわからない。一瞬だったかもしれないし、数分はそのままだったかもしれない。
 そしてその不思議な時間を過ごしたジェイムズが己の腕を見ることが出来た瞬間に視界を開け放すと……このどこを見ても真白い部屋にいた、というわけだ。
 思い返してみても意味がわからない。だが。
「早く皆と合流せねば」
 幸い出入り口と見られる扉を見つける。
 全てが白で覆われていて見え辛くなっているが、ジェイムズが通るのに苦労はしない程度の大きさをしていることが伺える。取手の部分が見慣れない銀色の突起物だが扉から突き出しているのだ、取手だと思って間違いではないだろう。
 たったの三歩で辿り着いたその取手に指先が触れた。
 バチン! と板と板が思い切り打ち鳴らされたような音がし、すかさず扉の反対方向へ跳ぶように下がる。
 その音が合図だったように、ジェイムズの前方、扉と思しき物にじわじわと文字が浮き上がる。
 そこには『ヘクターとジェラールがセックスするまで出られません』と書いてあった。
「………………………………………………なんだこれは」
 この世の嫌悪という嫌悪を集めて煮込んだような顔でジェイムズはその文字を凝視した。
「おい、なんだこれは。ぐ……口にするのもおぞましい……!」
 ずい、とその文字の前まで無防備に近づいて目が何度も文字を追う。
「いや何かの間違い……では、ないが、そう書かれて……そんな馬鹿な……何ということだやはり書いてある……」
 ブツブツと呟きながら白い扉を凝視する男の姿はなんとも形容し難い。だが幸いにもここにはジェイムズしかおらずその姿を見るものは無かった。
 口元を押さえながらジェイムズは未だ溢れ出る盛大な独り言を続ける。
(ああヴィクトール様、我が親友殿よ。貴方の遺志を継ぎジェラール様を守ると決めた俺だがよもやこのようなことになるとは考え付かなかった、俺の怠慢を許してほしい。どんな相手であれジェラール様が選んだのであればと目を瞑ってきたのがいけなかったのだろうか、貴方がいれば許さなかっただろうか、だが誰しもが心休まる時間を持つものだと貴方も言っていた、それであれば、しかし――)
 文字を見つめるのをやめたジェイムズはうろうろと狭い室内を行ったり来たりしながら思考を続ける。
 ふと。扉をまた見る。
「なぜ俺は黙ってこのようなわけのわからんものに従っているのだ」
 急激に我に返る。
 あまりにも唐突に理解の範疇を超えたものを見せられ冷静さを失っていた。
 そもそもその文字が示すものは何の根拠も無くただ唐突に異音とともに現れたというだけだ。
 遺跡からなんらかの術によってこの場所に移されたのであれば全てを疑うべきなのだ。
「よし」
 そこからジェイムズは扉の観察を再開し取手を押してみたり引いてみたり、扉に体当たり、果ては剣を使ってみた。
「……なんなんだここは」
 技を叩き込んでみたというのに、扉も壁も傷一つつかない。変わらずにずっと始めの真白さを保っている。何事も無かったかのように。
 翻ってジェイムズの方はといえば、肩で息をし呼吸は荒く疲弊している。それが余計に変化のない真白い部屋があざ笑っているかのようでありジェイムズの眉間には深い皺が寄った。
「まずいな……」
 はっきりとした時間を把握してはいないが、それなりの時間が過ぎているだろうことは己の疲労と喉の乾きで察した。
 下手に動いても体力を消耗するだけと分かってはいる。
 だがこのあまりにも変化の無い部屋でおとなしくしているのもあだに時を浪費するだけなのではないか。
 いいや、しかし。
 床に座り込み口元を押さえ思考する。
 気が狂いそうになる白い白い部屋の中、ジェイムズは考える。
 とはいえ何か妙案が都合よく浮かぶはずもない。
 いたずらに時ばかりが過ぎていく。
 このままここで朽ちるのか――そう思った時だった。
 かちり、と小さな音が響く。
 それは扉と思しき場所からかすかに聞こえた。
 ジェイムズは顔を上げ扉を見、ゆっくりと膝を立てて立ち上がる。
 ふらりと扉の取手に手を置いた。
 固い突起だと思っていた銀色の取手は、ゴブレットの窪んだ部分を埋めたような形をしていて、つかむと捻ることができた。
 金属の噛み合うような音をさせて扉を押し開く。
 するとそこには、急に色が飛び込んでくる。
 暗い青の石の壁、ほのかにともる明かり。謎の機構が光を床に走らせて、その先には点滅する球状の――あの白い部屋へ送られる前にいた場所だ。
 ジェイムズはたまらず一歩踏み出した。左右を見渡しそして見つけたのは黄金の鎧を身に纏った……
「ジェラー……!」
 ジェイムズは声を上げようとして失敗した。
 視線をさまよわせて落ち着かない様子のジェラールがやけに首元を気にして装備を撫でている。艶っぽく色づいた頬に少し湿気を含んだような髪。そしてそのジェラールをヘクターが肩を抱いて先導していた。ジェラールも恥じらいを見せながらもおとなしくそれに従っている。
 その一部始終を見ていた、見てしまったジェイムズの脳内には燦然と輝く文字列がある。
 
 ――『ヘクターとジェラールがセックスするまで出られません』
 
 何かがかちり、とぴったり嵌まる。したくなかった答え合わせを完遂してしまった。
 ものすごい顔をしてしまっていることを、ジェイムズははっきりと自覚していた。
 だが表情筋は仕事をせず、そのままの顔で固まってしまっている。
 さらなる不運がジェイムズを襲う。
 その顔のまま、はっきりと、ばっちりと、しっかりと、ジェラールと目を合わせてしまったのだ。
 みるみるうちにジェラールは首から上る赤みを抑えられていないまま、顔を真っ赤に染め上げていく。
 このようなあからさまな反応をみて、気づかぬはずもないだろう。
 もう確定ではないのか。
 ジェイムズがあの妙な部屋から出られた理由。
 部屋の中で見た文字。
 それはつまり。
「っちがう、そうじゃない!」
 ジェラールの必死の声も虚しく、肯定と等しい叫びだった。
 
 
 了

じゅうぶんおとな。