12年前に書いた話。気に入っているので再掲。今とは多分違うと思いますがそれなりに読めるものになっていると思いますのでよろしければ。
ジャンル:DISSIDIA FINAL FANTASY
メイン:スコール、バッツ(中の人は腐っているのでスコバツに見えるかもしれない)
傾向;戦闘シーン習作。戦ってるだけ。
こういう系統のお話、ヘクジェラちゃんでも書きたいという気概だけはある。
チャンネルが合ったらよろしくお願いします~
守りたいとは思わない。
守られたいとも思わない。
けど、助けたいと思うよ。
失う恐怖
ぼんやりとかすむ目に、さすがにまずいなとバッツはらしくもなく舌打ちする。
「おい、スコール。生きてるか?」
わざと明るい、いつものような声で問いかければ、背中合わせの向こう側から不機嫌そうな声で答えは返ってくる。
「・・・っ!当たり前だ!」
だよなーと声の調子を変えずに軽く返すが、いつ食らったかもう忘れた腹の疵がまたずくり、と痛む。
いやな汗が額から流れ、落ちた。
状況は最悪といってもいい。
数体のイミテーションに囲まれ、逃げることはまず不可能。
さらに今よりも多かったイミテーションの数を減らすために負った怪我は決して軽くはない。
今は隙を見せずに睨み合っているため、イミテーションたちも容易には近づいて来れないが、それも時間の問題だった。
”ものまね”して出したクラウドのバスターソードを握る手に力がこもる。
ともかく、今はこの状況を『なんとか』するしか他にない。
そう思ったのはバッツだけではなく、スコールもまた同じだった。
頷きあい、それぞれの剣を構えなおすと、それを合図に今まで睨み合っていたイミテーションたちが一斉に攻撃を仕掛けてくる。
ゆっくりと流れていた時が、再び加速を始め、その場はまた激戦地へと変わった。
迫りくる『セシル』の振り降ろされた剣をバスターソードで受け、弾く。
今離れた剣と剣が重なり合った時の衝撃は、互いに大したダメージを与えなかったが、しかし今の状況ではつらい痺れをもたらしバッツを苛む。
また常からのバッツらしからぬ、舌打ちを一つ。
続く『セシル』からの攻撃を受け止め、お返しとばかりにバスターソードを横薙ぎに振るう。
バランスを崩した『セシル』に追い打ちをかけようと地を蹴り上げ駆け寄るが、『セシル』の影にになって見えていなかった前方から『フリオニール』が弓を構えているのが見え、あわててバックステップで回避した。
後方からも剣と剣が重なり合う鈍い音が聞こえる。スコールだ。
人員的に、二対多数だが実際は己を守るのに精一杯で、一対多数が現状だった。
別にスコールが守らなければならない程に弱くはない。むしろ今もしっかりと見てはいないが群がるイミテーションを相手にうまく戦っているだろう。それは知っている。
けれど、ただでさえ手負いの状態だ。力は普段に比べて劣る。
せめてあと一人。あと一人いれば、回復魔法をかけることができるのに。
バッツはこの先ほどとあまり変わらない状況に歯噛みした。
「ったく!ふざけん…なァッ!」
声を荒げながら振り降ろしたバスターソードは、相対していた『セシル』を砕き、人形(ひとがた)であったものを無機質な破片へと変えた。
全身が痛んだが、それを気にさせるほど、敵は隙を作らない。
後方からフレアが迫ってきているのを感じ、まろぶように前方へ転がる。
次々と襲い来るイミテーションを相手に、バッツの思考もただ戦う、ということだけに傾倒し、徐々に頭は白く、何も考えられなくなる。
がむしゃらに戦うことしか、状況は許してくれなかった。
—どれくらい戦っていたかなんて、わからない。
全身を血で赤く染め、迫りくるイミテーションの群れを前に、もしかしたら『あいつ』もこんな気持ちだったのかもしれない、と記憶をかすめる少しドジな敵…だった気がするし、友だった気もする『あいつ』を思いながら、少しだけ頬を緩める。
一対多数。
なるほど、これは辛いな。などとつぶやいても、状況は好転しない。
首筋を流れる、汗か血かすらわからない何かが流れるのを感じながら、前方を睨んだ。
それでも、確実にイミテーションの数は減っていた。
大体なぜこんなにも多くのイミテーションたちを相手にしなければならないのか。
若干の膠着状態にある今、バッツは再び思考を巡らせる。
そうして悪態をついたが、同時に不安もよぎる。
他の、仲間たちはどうなのだろうか、と。
しかしそれも確実な通信手段を持たない今、知りようがなかった。
とにかく無事に仲間のもとへ帰りつくしか、その答えはもらえない。
血と汗で滑る剣を、離すことがないように、確かめるように握る手に力を込める。
無事に帰るため。
バッツは駈け出した。
すばやく迫ってくる『ジタン』を高く跳びあがってかわし、繰り出した攻撃の反動で立ち上がりが遅い『ジタン』の頭上から、落ちていく重力も剣先にこめて振り降ろす。
剣は『ジタン』を縦に砕き、ガラスが割れるような澄んだ音が響いてその破片が辺りに散らばった。
着地し視線を上げると、その先にスコールがいた。
バッツ自身に降りかかるイミテーションたちの攻撃をいなしながら、ちらりとその状況を見れば、芳しくない。
スコールの位置が悪すぎる。
いまにも、イミテーションたちに囲まれて総攻撃をかけられるのも時間の問題だ。
どう動くか考える前に、バッツの足はそちらに向かって動く。
そして。
「スコール!跳べ!」
バッツは叫んだ。
その声に気付いたスコールが、その身に降りかかる攻撃を剣で流し、真上に跳びあがれば、今までスコールがいた場所にイミテーションたちの攻撃が重なって地面を割っていた。
ただ一人、スコールを追い同じく跳びあがった『オニオンナイト』が魔力をその手中で高まらせていたが、スコールのライオンハートが小さな体を斜めに斬り上げ、魔法は未完成に終わり、衝撃で飛ばされた岩壁に叩きつけられあっけなく砕け散った。
地上では、スコールを取り囲んでいたイミテーションたちが真上に逃れた彼を追おうとそれぞれが足に力を込める。しかし。
「お前らの相手はおれだよ!」
そう言って、バスターソードを真横に薙げば、スコールを取り囲んでいたイミテーションたちが面白いほど簡単に四方八方へ吹き飛び、その先でただのかけらとなって散って行った。
そしてバッツは散って行ったイミテーションだったものたちには目もくれず、背後に迫っていた『フリオニール』の矢を返す刃で打ち落とした。
それと同時にタイミング良くスコールがバッツの背後に着地し、先ほどと同じように背中合わせになる。
「無事みたいだな!」
「癪だが助かった」
「なんだよその言い方!」
互いに荒い息をしながら、声を掛け合う。
正直、何か話してでも居ないと気がまぎれないのだ。
今も戦えてはいるが、さすがにもうほとんど持たないのはわかった。
「もう時間、あんまかけられない・・・ぞ!」
尚も迫りくる攻撃を防ぎながら、会話は続く。
「ならば一気にケリをつける」
スコールは常と変らぬ冷静な声音でそういうと、まっすぐ前を見据えて走り出した。
バッツは一瞬反応が遅れたが、すぐにあわててその後を追おうとするが、たたみかけるように次々襲いかかる攻撃にすべてを倒すことはできなかったが、数体のイミテーションを切るというよりも殴るように振りその体を吹き飛ばすと、やっとスコールの背を追う。
イヤな予感がしていたのだ。
そしてそれは正しかった。
走り出したその先、スコールは今まさに敵に囲まれその身には複数の刃が迫っていた。
できる限り早く駆け寄ったが、とても間に合いそうになかった。
助けられないのか。
・・・いや。
「んの馬鹿野郎!」
叫びながらバッツは”ものまね”していたバスターソードを消し、ただ必死に、前方のイミテーションの群れに向かい『あんこく』を放った。
静寂。
痛いほどの静けさが、『あんこく』を放った態勢のままのバッツをさす。
残ったのは、イミテーションの残骸と、衝撃で吹き飛ばされたスコールだった。
バッツはさらに疲弊した体を引きずってスコールのもとへ近づく。
倒れたままのスコールのもとまでたどり着くと、その体をゆすり、意識を確認する。
「おい!スコール!起きろって!」
過度とも思える揺さぶり方だったが、バッツは己を苛む恐怖をごまかすように、揺さぶり続ける。
すると、小さなうめき声が漏れ、スコールは覚醒する。
「・・・起きてる!あんた俺を殺す気か!」
めまいでもするのか額を押さえながら、スコールは起き上がり声を荒げた。
しかしバッツは、顔をしかめ声を張り上げる。
「スコールこそ自ら死にに行ったようなもんだろうが!」
その声に、スコールは彼には珍しく目を丸くし、素直に驚いていた。
バッツは怒気を孕んだ声音でなおも続ける。
「今のはどう考えても無謀すぎるだろ!自殺しに行ったようなもんだ!確かにケリは付いたけどな、今のは運が良かっただけなんだぞ!分かってるのか!」
そう、個々はそんなに強くはない。けれどその数は殺人的なのだ。
果敢に挑んでいったとしても、勝算がなければそれはただの無謀だ。
それで死んだらどうなる?
あまり考えたくないものがその場合の未来に用意されているだろうことは明白だった。
凄まじい目で睨まれ、スコールはただ呆然とするしかなかった。
しばらく気まずい空気のまま沈黙していた両者であったが、バッツが仕方なさげに大きなため息をついた事でそれは終わる。そしてスコールの横に突然倒れた。
「バッツ!」
「あー・・・疲れたんだぞこんちくしょー。腹いてーし」
いきなり倒れたバッツに慌てたスコールだったが、次いで発せられた言葉に意識がなくなったわけではないと安堵し、同時に何とも言えない、罪悪感のようなものがこみ上げた。
・・・あの時は、確かにそれが最善策だと思ったのだ。
幸いイミテーションの数は一人でも何とかなりそうで、それならばと走り出した。
ただ予想外だったのは、今まで地に倒れ伏して片腕の無くなったイミテーションが突如起きあがり、背後から迫った来たのだ。
それをかわそうとバックステップで何とか取り囲まれる事を回避し、第二撃に備え構えた所に、バッツの『あんこく』が全てを吹き飛ばし、スコールも同じく吹き飛ばされたのだった。
しかし己を過信したせいで窮地に追い込まれたのは確かな事実であり、同じく助けられたのもまた事実であった。
「・・・すまなかった」
自然に、謝罪を口にしていた。
呟くような、小さな声で。
「本当にわかってんのかよ」
未だバッツは不機嫌だ。声がそのように訴えているし、表情も険しいままだった。
「判断ミスだった」
うなだれたスコールに、バッツはいじめすぎたかなとわずかに口角を上げる。
「ったく!しょーがねぇなぁ・・・」
さっきまでの表情がウソのようにいつものように笑って、スコールに向かって手を伸ばした。
手を伸ばされたスコールは、怪訝な顔で伸ばされた手とバッツの顔とを交互に見る。
その様子に、呆れながらもいつもの笑顔を浮かべたバッツは更に手を伸ばす。
「起こしてくれって言ってんだけど?」
やっと合点がいったスコールは、伸ばされた手を掴み、力を入れる。
しかしその時、バッツはスコールの背後でかすかに動いた人影に気付く。
・・・考えるより先に、体が動いていた。
一拍おいて、確かな殺気を肌で感じた時、バッツはスコールのを握っていた右手を払い、その右手には剣を、左手はスコールの体を突き飛ばし、中途半端に起きあがっていた自身を支えた。
そして剣を敵に向かって突き出す!
確かな手応えを感じ、しかし同時に右胸に灼熱が宿る。
「まずった」
どこか他人事のように呟くと、せり上がってくる熱をはき出す。
差し違えたイミテーションの手は、剣は、バッツの右胸に刺さったまま、バッツの手によって貫かれた胸のあたりからひび割れていき、無数のただの欠片となり、バッツとスコールに雨のように降り注いだ。
その様を、スコールは見えない何かに隔てられた先から見ていたような感覚に陥っていた。
まるで彫刻のように、バッツは突き出した剣を構えたまま動かない。
これが現実なのか、夢なのか。突然すぎる出来事に、ついて行く事が出来ないでいた。
渇いた地面に、バッツの手から離れた剣が落ち、鈍い音をたてて辺りに響いた。
それと同時に、バッツの体は傾いでいき、スコールは急に現実に戻されたかのように慌てて起きあがりそれを支える。
「バッツ!」
悲鳴のようなスコールの叫びがこだました。
辺りは痛いほどの静寂に包まれ、ここがついさっきまで激しい戦闘が繰り広げられていた場所と同じだとは思えないほどだった。
「おいバッツ!しっかりしろ!」
揺さぶるが、バッツは荒く細い息を吐き出すのみで、閉じられた瞳はあく事を忘れてしまったかのように固く閉じられていた。
ただ、ごぽり、ごぽり、と胸の疵から、口から次々と溢れ出す赤黒い血に、スコールは焦る。
「くそっ!何か・・・何か無いか!」
アイテムが残っていないか、自らはもちろん、バッツの持ち物も探る。
そして気付いた。
バッツの、その身に残る疵の多さに。
庇われたときについた右胸の傷。
割かれた腹。
明らかにおかしい方向に曲がっている指。
その様子に愕然とする。
守られていた?
「くそっ!」
結局アイテムも見つけられず、しかし途方に暮れても居られない。
・・・まだ息はある。
仲間達の所へ戻らなければ。
そうしなければ、バッツが・・・しんで、しまう。
その考えに至ったとき、えも言えぬ絶対的な恐怖に襲われた。
いやだと、心が叫んだ。
「死なせるものか、あんたを、死なせなんかしない」
そしてバッツの血まみれの体を、同じくらい血まみれになったスコールは担ぎ上げると、歩き出す。
死なせるものか。
その思いだけが、スコールを動かしていた。
了