メイドの日だな~と思っていたら書けたのでそのまま5/10にTwitterに上げた話です。
やっぱりドストレートにヘクジェラにいちゃいちゃして欲しかったので後半を継ぎ足して収納します。ちょっと色っぽい。けど全年齢セーフです……よね!?
続きから読みたい方は次ページへ。
3年ぶりにメイドちゃん視点のお話を書きました。今回はちょっとやってみたくて慣れない一人称です。読みづらかったらごめんなさい。
前回↓
迷子のメイドと〝従僕〟
「困ったわ、困ったわ」
右に左にとあたりを見回すけれど、この広い広い宮殿は同じような壁、壁、壁。
「ここ、どこなの……」
途方に暮れた声を出してしまっても、仕方がないと思うの。
ずうっと憧れていた宮仕え。
メイドとしてこのアバロンの象徴といえる宮殿への出仕が決まった時は、そりゃあもうお祭りと春とが一緒にやってきたような嬉しさを感じたし父さん母さんにも涙ながらに「よくやった」と言われ、ああこれで私も上流階級の仲間入り……なんて、そんな、ことも思ったわね。
いちメイドにそんな華やかなものがあるわけないのに。
それでもただの平民が宮殿に堂々と上がれるのは滅多にないこと。
頑張らなきゃあ、と思っていたけど……問題なのは――今まさにその問題の最中にいるけど――私、道に迷いやすいのよね。
ああいけない。
はやく戻らなければメイド長にしかられる。あのおばさま怖いのよ。先輩たちもみんな「とりあえず謝って過ぎ去るのを待つのよ」というありがたい指導も頂くほどの方。
兵舎への手紙を届けるだけでどれほど時間を使っているの! と雷が落ちるわ。
潜っていた思考を無理やりに引き上げて、私はまず人を探すことにした。
迷子をやって十数年。自力で解決するのが無理な私がたどり着いた方法は人に聞けばいい、ということ。
そうやってここまでは辿り着けたのだから、また同じようにしていけばいいだけのこと。
でも、最後に聞いた人の通りに来たはずなのにおかしいわよね。
視線を上げると壁、壁、壁。
誰もいないところで一人でいるのはちょっと怖い。
それもこれもこの宮殿が広いからいけないのよ!
「……たしか、あっちから来たから、こっち……に行きながら人を探しましょう!」
一人きりだという恐ろしさから逃げるように、私は歩き出した。
幸いにもすぐに人影を見つけて、嬉しくて走ってしまった。
「あの! ……うぇ!?」
その人が見える、というところで私はなぜか手首を取られあっという間に背中がわで片腕をねじあげられてしまった。
「いたたたたたたたた!」
「……きみ、なぜこんな所に」
自分の叫び声にかき消されながら男の人の声が耳元で聞こえる。えっ何これ!
「いたいいたいたいたいいたい!」
「理由を言わなければ離すことが出来ない」
「道に迷いました! ただのメイドです! すみません! 迷子になって!」
ぱっと手が離れる。
可哀想な私の腕が前に戻ってきて痛みを和らげようとさすりながら振り向く。
いたいけな乙女になんてことを、と見上げた先には見たこともないほどの美男子がいて乙女にあるまじき口をぱかっと開けた顔で見惚れてしまった。
「すまない、手荒な真似をした」
柔らかく細められた緑の目が私を見て申し訳なさそうにしている。
オレンジに近い茶色の長い髪は後ろでひとつに束ねていて、高い位置で留めているからか毛先が肩にさらりと流れてうっかり目で追ってしまった。だがその纏め方はとても綺麗でそこらの粗暴な輩とは違う人種だと一目でわかる。でも服装はシンプルな白いシャツにスラックス。従僕のお仕着せだ。つまり仲間!
「こちらこそごめんなさい! 迷って道を聞きたかっただけなの! 急に声をかけられたら驚くわよね、早く戻らないとと思ったら焦っちゃって。あのね私兵舎に手紙を届けに行くところだったんだけど道に迷っちゃってあと少しで着くはずなんだけどちょっとだけ間違っちゃったみたいなのだから知っていたら教えてくれない?」
ずい、と聞いてみる。一気にまくし立てたからか彼は目を丸めていたけれど、焦っているのだ。そのあたりは見逃して欲しい。
「……だめかしら。兵舎に着くまで一緒に来てくれとまでは言わないわ、教えてくれるだけでも」
ふふ、と目の前の彼は微笑む。何をしても絵になる人だ。必死な自分が馬鹿らしくなるほど。
「目的地が同じようだから一緒に行こうか。口で説明するにも入り組んでいて難しいんだ」
「本当!? ありがとう!」
道を教えてもらえるだけでもありがたいのに一緒に行ってくれるなんて!
そして同時に助けを得られて私はすっかり安心した。道をまた尋ねて間違えてしまったらと思っていたからだ。この提案はありがたい。
こっちだよ、という美男子の先導に合わせ彼の隣を歩いた。
さっきまでは怖さもあった道が一人じゃないだけでこんなに気楽になる。やっぱりゴールが見えれば怖さも落ち着くのね。
「それにしても……きみはどうやってここに?」
質問を投げかけられ横を歩く美男子を見上げる。乙女としては高い方の身長だけど、やはり男性に比べると小さいんだなと思う。少し首が痛い。
「えっと、それが前に道を聞いた人の言ってた通りに歩いていたはずなんだけど、気がついたらどんどん人気のない道になってて……おかしいなーって思ってはいたんだけど、そのうち着くかもーって歩き続けてて」
時々視線を合わせながら、道の先を主に見て進む。
同じような壁が続くまるで迷路のような道。右に曲がってまた右、すぐに左、しばらくまっすぐでまた左、右……ぐるぐると正解を引き当てないといけないような道はつくづく一緒に行ってくれて助かったと心の底から思える道のりだった。
そのそこそこに長い道のりも、おしゃべりをしながらだとあまり長く感じないのはなんでだろう。
「つまりたまたまこの道に入り込んだのか」
「ここはそんなに変な道なの?」
ふふ、と笑い声が頭上に降る。
「秘密なんだけれどね……ここは皇帝が使う隠し通路なんだよ」
「えっ!?」
思わず驚く。けれどそれを言った彼はくすくすと楽しそうに笑っていて、私はすぐ顔をスン、と真顔に戻した。
「……からかって楽しい?」
「ふふ……すまない」
もうすぐだ、と彼は言ってずっとまっすぐで何もない壁ばかりの道の終わりを指差した。
「あっ」
角を曲がってすぐ、見覚えのある景色に思わず声を上げた。そこは宮殿と兵舎の間を結ぶ通路だった。
「あ~~~……良かった。ここまで来れば安心だわ」
「仕事は間に合いそう?」
ふっと背後から語りかけられて肩を思い切り揺らしてしまう。
「だ、大丈夫! たぶん! でももう行くわね、助かった、ありがとう!」
「よかった、それじゃあ」
「あ、お礼! お礼するわ、あなた名前は?」
「いらないよ。私も急いでいるからここで」
気をつけて、と彼は言って兵舎に消えていった。慣れた足取りだったから、きっと通い慣れているのだろう。それはそうか、あの迷路のような道を案内してくれたのだし。
「……いけない、まずは仕事!」
お仕着せの隠しに手を突っ込み手紙の所在を確認。よし、ある。
もういない彼の方に手を振るのをやめて走り出した。
――すぐに責任者と思しきおじさまに叱られた。仕方なく歩いた。
◇ ◇ ◇
そして私は賢いので、帰路に迷わないために同じように宮殿にもどるメイド仲間を捕まえた。これで迷子はもうしない!
幸いおしゃべり好きの子なのでしずしず歩きながら話す。こういう時は顔見知りなのがありがたい。
行きの顛末を話していると質問が飛んできた。
「じゃあ行きもいろんな人に道聞いてきたの?」
「うん。メイド仲間とー、優しそうな兵士さんとー、あ、あとそれから従僕。この人がさあ、すっごい美男子で」
「えっ!」
そこからメイド仲間の食いつきはすごかった。なんせ彼女は〝運命〟を探しているのだ。もちろん乙女には憧れの恋のひとつやふたつはある。私だっていつかは経験してみたいけど、くらいのものだが、彼女は違う。自ら動いていく方だ。
それからは容姿に年齢話し方、さまざま質問を立て続けにされて目を回してしまう。
なんとか、どうどう、と両手を胸の前で上げなだめながら一つずつ答える。
「話し方は丁寧な感じだったわね。育ち良さそう」
「いいわね、優しいひとの方が好みだもの。それで?」
「年齢は私たちより少し上じゃないかしら。落ち着いた方だったわね」
「理想的だわ。やっぱり男は年上よ! それで顔は?」
「顔って……見た目は茶髪に緑の目で、まあたしかにとっても美男子だったわね。見惚れちゃうような」
きゃあ、と黄色い声が上がる。私には頑張っても出せそうもない可愛い声。
妙に応援したくなってもっと詳しく話せないか、と視線を動かしていると、ふっと廊下に掲げてあった絵に目が止まる。人の顔ってやっぱりつい見ちゃうのよね。それが肖像画でも。
「あっ、そうそう。こんな感じの髪の毛で……」
描かれている人の顔を見る。髪の毛、それから瞳、それから――
私はまた、ぱかっと口を開けてその顔が描かれている肖像画を見上げた。
もう周りの音が一気に聞こえなくなる。
オレンジに近い茶髪の、緑の目をした美男子。
そこに座すは皇帝陛下。このアバロン宮殿の主である。
