天の国、絵描きが不足しているの?不足しているから一人で何人分にもなるような、いや何万人分?とかの腕を持つひとを立て続けに連れていくの。
いのまた先生、ご逝去のお知らせを見てまた午後の私が使い物にならなくなった。
記憶に新しい鳥山先生の訃報だって、直撃世代というには少し外れている自分ですら衝撃で動けなくなったというのに。
いのまた先生まで?
中学生の頃、入り浸っていた図書室の中でライトノベルの棚を行ったり来たりしていた私がなんとなく手に取った本があった。
ドラゴンクエスト5 天空の花嫁の、ノベライズ本だった。
手に取ったには理由がふたつ。
ちょうどその頃私はドラクエ7に触れていて興味があったから。
もうひとつは絵が素敵だったから。
そのとき、私はその絵を描いたひとをしらなかった。
その本に出会ったとき、私は久美沙織先生の文章に打ち震えていたからなのだけれど。
イラストの描き手にまで脳を使えなかった。
それでもイラストに添えられたサインの「M」がかっこいいな、と思った覚えがある。
それからしばらくして、私はテイルズシリーズに手を出した。
……といっても、初めてプレイしたテイルズはアビスなのだけど。
思い返せば私は藤島テイルズの方に親和性が高く、いのまたテイルズはこれまでにグレイセスとリバースしかプレイしていない。
けれども、アビスをプレイしていた当時、テイルズシリーズを知って、キャラクターデザインの人が違って、そうして目にした別シリーズのテイルズ。ああ、このテイルズオブデスティニーは、いのまたむつみさんという人がキャラデザなんだ、と。やっとそのお名前を知った。
いつ頃、ドラクエ5ノベライズの絵がいのまた先生だと気付いたのか、はっきりとは覚えていない。
だけどその情報が脳の中で繋がれたとき、妙な興奮を覚えたことは記憶にある。
中学生の私が「すてき!」と思ったあの感性は、いまもずっと私の中に息づいているのだと。
学生時代、いのまた先生の絵を何度か模写をしたことがある。はたしてそれを模写と言って良いのだろうか、というほどの拙いものだけれど。
難しすぎて、どうにも似なくて、「えがうまいひとは、えがうまいなあ」としか思えなかったけれど、今日訃報に接した現役イラストレーターさんやアニメーターさん方のコメントを読んだりして、唯一無二を持っていた偉大な作家さんであることをいままた、刻み込まれた気がした。
吸い込まれそうな瞳。
愛らしい少女と美しい男性。かと思えばしなやかな筋肉を描き出し、雄くさい年嵩の男性もいるけれど、世界観を急に少女漫画にしたような、匂い立つ花々と乙女の夢のようなリボンを添えて。
そうして描き出される絵の数々。
きっと知らない絵の方が多い。
それでも私の人生に刻まれている絵がある。
さびしい、さびしい、さびしい。
いつか人は死ぬけれど、ちょっとばかし、先生方、早すぎませんかね。