きみだけに、
「こういった経験は無いと仰ってませんでした?」
「……まあ、私も皇家に生まれたからね。そういったことも教育の一環なんだ」
「……ああ、なるほど。つまり“実地訓練”もあったわけですね」
ヘクターの言いようにジェラールは苦笑する。
「その通りだ。いつもと違う寝室に連れて行かれて訳もわからず入ったら見知らぬ女性がそこにいて鍵を掛けられた」
「えげつねえ」
おっと失礼、とヘクターは悪びれず断りを入れる。ジェラールはからからと楽しげに笑い声を上げていた。それが落ち着くと、その時を思い出しているのか目を伏せ、ふ、とひと息笑いにも取れる吐息が溢れる。
「その女性にはなんとか部屋を出てもらえないか頼んだのだがこれが仕事だというその一辺倒でな。だから朝までずっと話をして彼女が寝るまで私は話し続けていただけなんだ」
「その状況で何もしないでいられることに驚きますね」
「……皇家に生まれたのだから、いつかはそういったこともすると思ってはいたよ。だけど……笑われるかもしれないが、私は出来るならそれは愛する人とがいいと、思ったんだ。だから何も気持ちの無い、彼女を抱くことは私にはできなかった」
「……愛、ですか」
「そうだ。何かおかしな事を言っただろうか?」
「いえね、それで言うならばつまりこの状況は“ジェラール様は俺のことを愛しているので俺となら床を共にしても良い”って言ってると同義だって分かってます?」
「そうだと言っている」
「は」
からかい混じりのヘクターの声に応えたのは、まっすぐな……真っ直ぐすぎる目と言葉だった。それはそのまま直線的にヘクターの胸を貫く。
一度呆けたヘクターは、しかし次には大声で笑い出した。
その様子に虚をつかれたジェラールは目を見開いて、それから不服そうに顔を歪める。
「……なぜ笑う」
「ふ、ふふっ、ははは! いや、これが笑わずにいられますか。俺には無理だ」
「ヘクター!」
「こんな幸運を俺がもらって良いのか」
落ちた声は、およそヘクターの常からはかけ離れていた。静かで、柔らかな、安堵の声。
「……君にしかあげないよ」
腕の力を強める。今度は相手もそれに倣って、二人の距離はそのこめられた力の分近づいた。
